マネージャーが不敵な笑みを浮かべた。


「太いロープがあったらあの絶壁は歩けるようにつくられちゃあるんやして」

 マネージャーの話では、かつて岩登りでもする者が設置したのか、ロープを結わえる鉄のクサビがいくつも打ち込まれており、幅は狭いが小道のようになっているのだという。


 遅れていた軽トラの年配者らが、ロープやナタなどの道具を携えて合流した。

 見ると、いつの間にか白装束の集団も滝壺の周辺に集まっている。


 その先頭に立つミイラ男がやおらこちらに近寄ってきた。

 やはり間近で見ると大柄でもあり気味が悪い。

 皆が少し距離をとって離れる。


「タカアキ、そっち側にはマムシが多いさけえわいが先に行くわしょ」

 ミイラ男は掠れた声でそう言うと、マネージャーを気遣うように前に立った。


「マッサン、おまえは小さいときから蛇は大の苦手やったんとちやうんかい」

 マネージャーは年配者から取り上げたロープを、ミイラ男の首筋に背後からヒラヒラっとさせた。

 ミイラ男は微動だにしない。


「へー、マッサンも強ぉなったもんやして」

 と、おどけるマネージャーをチラリと横目で流すとミイラ男は崖の方へと足を進めた。


「タカアキは子供の頃と全く変わってないっしょ。一緒やして」

 ミイラ男は背中を向けたまま言うと、広い肩をしゃくるよう二、三度揺らせた。

 マネージャーの乾いた笑い声が滝壺に響く。


「私らも加勢しますわ」

 と、モリケンがナタを手に後に続いた。

 センプウとナンツレも、モリケンの後を追うように滝壺の端を渡った。


「気を付けて」

 紀美代と釣りキチさん子が心配そうに手を振る。


 ミイラ男を先頭に、五人が順番に岩に手を駆けて崖を上っていく。

 勢いだった山風に雑木が煽られる度、彼らの這いつくばった姿が木漏れ陽の中に浮かんでは消えた。


received_1698452713834218